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検査と実態との乖離

4月13日付のThe New England of the Medicineに掲載された論文によると
April 13, 2020 DOI: 10.1056/NEJMc2009316

ニューヨーク市コロンビア大学の関連病院で3月22日~4月4日の間に出産した215人の妊産婦を対象に新型コロナウイルスのPCR検査を実施したところ、

215人中33人(15.3%!)がPCR検査陽性

その内29人(全体の13.5%)は無症状。

即ち、PCR検査陽性者の内、87.9%は無症状

 

nejmc2009316_f1
Figure 1. Symptom Status and SARS-CoV-2 Test Results among 215 Obstetrical Patients Presenting for Delivery.

その頃のニューヨーク市のPCR検査陽性者数及びニューヨーク市民全体に占める陽性率は、ニューヨーク州の公式ウエッブサイトからhttps://coronavirus.health.ny.gov/past-coronavirus-briefings

日付

検査陽性者数(人)

陽性率(%)

3月22日

9,045

0.11

  24日

14,904

0.18

  26日

21,393

0.26

  28日

29,766

0.36

  30日

37,453

0.45

4月 1日

47,439

0.57

3日

57,159

0.69

ニューヨーク市の人口は2019年7月現在で8,336,817人(U.S. Census Bureau)

でした。

 

急速にPCR検査陽性者が増えている時期ですが、陽性率は1%未満であり、妊産婦の陽性率15.3%とは大きな乖離があります。

PCR検査を受けるのは、発熱、咳などの症状が出ている人、PCR検査陽性者と濃厚接触があった人が中心で、無症候の多くはPCR検査を敢えて望まないでしょう。

妊産婦が、特に新型コロナウイルスに感染しやすいという報告はありません。妊産婦に行ったPCR検査での結果の方が、より現実に即していると考えていいのではないでしょうか。

4月18日現在のニューヨーク市でのPCR検査陽性者数は131,263人です。

妊産婦にPCR検査を実施した3月22日~4月4日のころの数倍です。

単純すぎる計算ですが、15.3%を数倍してみると、4月18日現在、ニューヨーク市民の半数ほどが感染し、すでに免疫を獲得している可能性が結構あるのではないでしょうか。一人の感染者がウイルスをうつし感染させる平均人数をRとすると、有効な対策を立てていない場合、新型コロナウイルスではR=2~3といわれています。

R=2の場合、全人口の50%が感染し、免疫ができれば、指数関数的な感染者数の増加は止まり、やがて回復する人が増えていくので収束に向かいます。

R=3の場合は、全人口の67%の感染が必要です。

有効な対策を立てる、あるいは感染が流行する前に免疫を持っている人がいればRは小さくなります。

ニューヨーク市では、新規の死亡者数が4月8日ころより減り始めています。おそらく、免疫を持っている人の割合が指数関数的な感染者数の増加を防ぐことが出来るレベルに達したのではないでしょうか。

PCR検査数を増やせば増やすほど、感染者数を正確に把握できるようになると考えるのは非科学的ですが、政治家が有効な対策を取っている素振りをみせるには格好の機会です。

PCR検査数に対する実際の感染者数が少なければ少ないほど、感染していないのに陽性(擬陽性)となる人が増えていきます。擬陽性の人は感染していないので、無症状で、当然死ぬことはありません。これで、致死率を下げることができます。さらに、ドラーブスルー型、ウオーキングスルー型などで手あたり次第に検査を増やすと、検査を受けるのは若年層が中心となり、さらに致死率を下げることができます。年齢別の陽性者数は、韓国では、20代が最も多くなっていますし、ドイツでは、PCR検査陽性者の平均年齢は50歳未満のようです。一方、フランス、イタリアでは62~63歳が平均年齢です。このようにして、他国と比べて致死率の低さを際立たせることが出来るのです。

政治家が他国より有効な対策を政治決断で実行してきた成果だとアピールすれば多くの民は拍手喝采し、支持率が上がります。韓国、ドイツではまさにそうなっています。

一方日本では、PCR検査数は一向に増えていきませんが、PCR検査の限界を理解した上で、科学的な見地から検査数を絞っているようではなさそうです。

4月11日の日経新聞朝刊の記事で、「4月上旬の首相官邸。「PCR検査はなぜ増えないんだ」。安部首相は加藤厚生労働相や西村経済財政・再生相との協議で不満を示した。同席した厚労省の医系技官から明確な返答はなかった。理論的支柱となってきたのは医師免許を持つ医系技官らだった。重度に応じて区別するしくみを早急に作り検査を増やす方向に行かず、軽症者の入院が増え続ければ重症患者に手が回らなくなる「医療崩壊」への懸念という従来からの姿勢が先に立った。」とあります。

元々、日本の民間企業は、「大学」、「専門家」をあてにしていません。強制力のない緊急事態宣言に対して、多くの企業は、様々な対策を自主的に実行しています。日本では、すでに免疫を持っている人が相当数いるのではないでしょうか(そう思う理由については後ほど)。今の自主的取り組みを何とか維持できれば、1~2か月で収束するのではないかと期待しています。

日本の慶応大学病院でも同様な結果が出ています

 

 

新型コロナウイルス

新型コロナウイルスについて、安全衛生委員会で説明している資料+アルファを掲載していきます。

4月29日現在で、産業医をさせていただいている事業所に向けて下記のメッセージを発信しています。

「密閉、密集、密接を避け、現状の自粛を続け、

手洗い、うがい、咳エチケット等日頃の感染予防を徹底していけば

日本は必ず早期に収束に向かいます。

息切れには注意しましょう。肺炎かもしれません。

軽い肺炎ではなかなか気がつかないかもしれません。

時々早歩きをしたり、階段を昇ったりして確かめましょう。

トイレやシャワーで息切れを感じるようなら肺炎はすでに進行しています。

息切れを感じたら、躊躇せずに相談センターへ電話しましょう。

・新型コロナ 集団免疫

・新型コロナの緊急事態宣言解除基準に明確な根拠はありません

5月14日における説明責任について

・的確な状況分析・実態に合った数理モデルによる予測がなければ、出口戦略を立てることは至難です

・接触8割削減に日本人の社会活動・生活様式に即した具合的な根拠はあるのか? 数理モデルでシミュレーションしました

PCR検査の限界
PCR検査の限界②
慶応大学病院 新型コロナ治療目的以外の入院患者でPCR検査陽性率6%の意味
PCR検査陽性率6%の意味②
セントラル空調による感染拡大リスクについて
マスクは有効です!感染させない、感染しない両方で
PCR検査と実態との乖離
自分が過去罹った軽症・中等症の症状について
企業における感染予防対策及び感染者が発生した場合の対応
日本は欧米に比べ感染者数、死亡者数が少ないのはなぜか
多くの日本人がすでに新型コロナウイルスに対する免疫を獲得していると考える理由①
疫学・医療統計を信用できる?
抗体を持っている人はPCR検査陽性者の50倍!?
新型コロナウイルスの致死率は季節性インフルエンザの致死率より低くなるはずです

 

 

PCR検査の限界

PCR検査数を増やせば、感染者数の実態に迫れるというのは妄想です。

以下は数字を結構使って説明していますが、ポイントは、
・PCR検査では感染者の3割が陰性。精度が低い!
・感染者100人中9人はPCR検査で2回連続陰性になり治ったと見做される。
・検査対象中の感染者の割合が低いと、感染していないのに陽性になる恐れ大。
です。

以下に詳細を記しています。

テレビのワイドショーでコメンテーターや専門家と称する人達が、日本のPCR検査数が少なすぎるため、正確な感染者数を把握できていない。このままでは経路不明な感染者が増え、感染拡大を抑えることができないと言っています。

在日アメリカ大使館は「幅広く検査をしないという日本政府の決定によって、新型コロナウイルスの有病率を正確に把握することが困難になっている」という声明を在日アメリカ人に発信しています。

彼らの言っていることは本当でしょうか。

日本のPCR検査数が他国に比べ少ないことは確かですが、PCR検査数を増やせば有病率を正確に把握することができるようになると考えるのは間違いです。PCR検査はそんな完璧なものではありません。

完璧な検査とは

感染している人は100%陽性、感染していない人は100%陰性となる検査ですが、

そのような検査はこの世に存在しません。

感染している人の内、検査陽性となる人の割合を感度

感染していない人の内、検査陰性となる割合を特異度と言います。

 

感染者(人)

非感染者(人)

PCR検査陽性者(人)

A

C(偽陽性)

PCR検査陰性者(人)

B(偽陰性)

D

とすると

感度 =  A/(A+B)、特異度 =  D/(C+D)

で計算できます。

通常、医療で使われている検査は、感度60~90%、特異度 80~95%程度です。https://www.canon-igs.org/column/macroeconomics/20200212_6236.html

新型コロナウイルスのPCR検査の場合、
「診療所・病院のプライマリ・ケア初期診療の⼿引き(日本プライマリ・ケア連合学会)」によると感度30~70%程度特異度99%以上らしいですが、

感度30~70%程度ということは、感染していてもPCR検査陰性になる人が70~30%いるということです。PCR検査で、正確に感染者と非感染者を区別でき、正確な有病率を求めることができるという前提自体が間違っています。PCR検査は、確定診断に至るためのツールのひとつにすぎません。

 

期待を込めて感度70%、特異度99.9%として、日本にあてはめて計算したいと思います。

国民1億2千万人のうち、0.05%の6万人が感染してしまっているとします。

韓国のように手あたり次第検査した場合、

 

感染者(人)=60,000

非感染者(人)=119,940,000

PCR検査陽性者(人)

A=42,000

C=119,940

PCR検査陰性者(人)

B=18,000

D=119,820,060

となり、

陽性者の74%(=[119,940/(42,000+119,940)]×100)は実は感染していません

感度が70%では、感染者の3割の人が検査をすり抜けてしまいます。

PCR検査に頼っていると感染経路不明の感染者が現れるのは当然です。

PCR検査を繰り返せば、より正確に感染者を特定できると考えるのも間違いです。

上の表で、PCR検査陰性になった方(B&D)にPCR検査を再度行ったとします。

 

感染者(人)=18,000

非感染者(人)=119,820,060

PCR検査陽性者(人)

A=12,600

C=119,820

PCR検査陰性者(人)

B=5,400

D=119,700,240

となり、

この2回目の検査では、

陽性者の90%(=[119,820/(12,600+119,820)]×100)は非感染者で、感染していないのに陽性となる人を増やしているだけです。

万が一、国民の5%の600万人が感染してしまったとしたらどうでしょうか。

 

感染者(人)=6,000,000

非感染者(人)=114,000,000

PCR検査陽性者(人)

A=4,200,000

C=114,000

PCR検査陰性者(人)

B=1,800,000

D=113,886,000

 

ここまで、感染が拡大すれば

陽性者の2.6%(=[114,000/(114,000+4,200,000)])しか非感染者ではなく、ほとんどが感染者となりますが、感染者でも陰性となる人が180万人にもなります。

これがPCR検査の限界です。

PCR検査をどんどん増やし、PCR検査陽性者全員を入院または隔離するようなことをやっていては医療崩壊を招くだけです。本当は非感染者なのに収容されれば、その施設内で真の感染者からウイルスを移されて真の感染者になってしまうリスクが十二分にあります。

逆に、感染者なのに検査陰性というお墨付きをもらった人は安心して、解放感から感染防止対策もそこそこに外出し、周囲の人がウイルスをうつされるリスクを負うことになってしまいます。

 

感染を疑わせる症状がある人、濃厚接触者、感染したら重症化するリスクが高い高齢者や基礎疾患を持っている人に対象をしぼることは当然のことで、CT検査など感度がPCR検査より高い複数の検査を組み合わせることで、感染を確定し、重症度を判定することで、適切な治療につなげようとするのが正しい姿勢です。日本はそのような方向になっていますが、ウイルスの培養皿にしたクルーズ船での対応や政治家や専門家会議がこれまで言っていることを思い起こすと、深慮の結果ではなく対応が遅すぎたため、偶然そうなっただけのような気はします。日本のPCR検査件数は確かに足りていないと思いますが、韓国がやっているドライブスルーでの検査はやりすぎです。

 以下はちょっとマニアックな計算です。

PCR検査人数に対する真の感染者率及びA、B、C、Dを求めてみたいと思います。

4月3日12時現在で、日本では

PCR検査人数 36,687人、PCR検査陽性者数2,541人です。

PCR検査人数に対する真の感染者率をX、

感度70%、特異度99.9%とすると

 

感染者(人)=36,687X

非感染者(人)=36,687(1-X)

 

PCR検査陽性者(人)

A

=36,687X×0.7

C

=36,687(1-X)×0.001

A+C

= 2,541

PCR検査陰性者(人)

B

=36,687X×0.3

D

=36,687(1-X)×0.999

B+D

=34,146

これより

真の感染率はX=0.0976で、

 

 

感染者(人)=36687X

非感染者(人)=36,687(1-X)

 

PCR検査陽性者(人)

A

=2,506

C

=35

A+C

=2,541

PCR検査陰性者(人)

B

=1,089

D

=33,057

B+D

=34,146

となり、

真の感染者であっても、PCR検査陰性となる人が1,000人以上いることになります。

PCR検査陰性でも重症であれば再度検査をすることになるかもしれませんが、真の感染者でも無症候の人がいることを考えれば、PCR検査だけで真の感染者数を把握することは不可能です。PCR検査を増やせば経路不明感染者は減り、もっと正確に感染経路を把握できるようになると考えるのは妄想です

非感染者なのに陽性になった方々は本当にかわいそうです。